ちょっとした買い物に行くため駅北口に出た途端、まるこめさんと声かけられた。
この「まるこめさん」というのは、ネット上で便宜的に娘や孫を「レミさん」「キン坊」と呼んでいるのとはちがって、文字通りの「まるこめさん」なのである。なんとなれば、ぼくを呼び止めたその人は、もうひとつのブログ「海猫伝説」を通して海岸で知り合った人であるからだ。
「海猫伝説」は近くの海岸で暮らす猫たちを題材にしたブログだ。続けていく過程で、そんな猫の面倒をみている人たち、日ごと海岸を散歩している人らと知り合った。近所が舞台のブログは少なからぬ人たちに知られていたらしく、「もしかしてまるこめさんですか?」というところからずいぶん知己が広がったものだった。
この日、声をかけてきた彼女も、長年海岸猫の世話を続けている人だ。行方不明になった子を一緒に探し歩いたこともあれば、用事があって猫のもとに行けない彼女に代わって、ぼくが食事を届けに行ったこともある。彼女の職場を訪ねたこともあれば、彼女が偶然ぼくの職場にやってきたこともある。10年来の知己である。
というわけで、久しぶりの遭遇にしばし話しこんでしまう。自分たちのこと、猫たちのこと、共通の知人のこと、娘のこと、孫のこと、それが可愛くてしかたないこと。あいや、ぼくの方がいささか多くを語りすぎてしまったか。まー、ぼくひとりが喋っていたわけではあるまい。
じゃあまたと別れた後、ふとスマホを見ると家族ラインにレミさんから「駅前で買い物してるんですが、これから遊びに行っていいですか」、ぼく個人あてには妻から「レミちゃん、駅前にいるって。会うかもよ」。そそくさと買い物をすませる。
どこかで会えるか、追い抜けるかと足早に帰宅すると、娘と孫はもう来ていた。そして思いがけないことばを聞く。「お父さんが女の人と話しているの見てました(笑)」。やっ。なんだ、そうだったのか。まさにきみのことを話してたのに。声かけてくれたらよかったのに。胸張って紹介できたのに。
どうやらぼくは、誰彼かまわず自慢したくてしょうがないらしい。
レミさんとキン坊を。
遭遇に注意せよ。
祖父はひとりで喋るかもしれん。

