駐輪場。
2月ともなると、定期契約している高3生の数がかなり減る。
たいして登校する必要がなくなるため、市内の子は必要時だけの一時利用、市外から通う子たちは自転車を引き上げ、たまの登校時は歩く。
市内の子とは、自転車で自宅を出て駐輪場にそれを停め、電車に乗って市外の学校に通う子たち。市外の子とは、電車に乗ってやって来て、駐輪場に停めてある自転車に乗って市内の学校に向かう子たち。
ま、そんなわけで、3年近く親しんだ顔や自転車が消え、駐輪場のおいちゃんたちは多かれ少なかれ淋しい思いをしている。特にぼくにとっては、入学時から知っている初めての卒業生。中学を卒業したての、初々しい姿でやって来た時から記憶に残っていたりする。日曜日にも出勤しているせいで、ぼくは新高校生の定期契約を担当することが多いのだ。
母親と、あるいは友達同士で彼らは来る。ひとりきりではまず来ない。学割を使うためには学生証の提示が必要なのだが、入学前なのでそれはまだ手許にあるはずもなく。が、恐縮する彼ら相手に固いことを言う気はない。一目瞭然ではないか。そこいらへんは勝手に個人の裁量だ。
ぼくはまた、契約書のファイリングも任されている。月が替わるたびに、新規あるいは継続の契約書を挿入し、期限が切れたものを抜き取っていく。2月、3月は抜き取る数が多い月だ。契約書の名前でしか知らないお客さんも多いが、手書きのそれにはちょっとした愛着もある。見るたび綺麗な名前だな、なんとみやびな名前であることよというのもある。それらも抜き取っていく。淋し。
などと感慨に浸っていたら、午後4時、元気な1年生が帰ってきた。赤い頬して「今日、めっちゃ風強くないですか」などと言ってくる。「このあいだ、自分で上の段に停められたんですよ。すごくないですか」とも胸を張る。コツあるものな。何度かぼくが上げてやったものな。そいで、後で下段が空いたら、そっと降ろしておいたりしたものな。
近々卒業していく3年生も、無邪気に見える1年生も、その度合いにまだ気づけていないだけで、大いに濃密な時間を過ごしていることだろう。この先も楽しいことがたくさんあるといい。明るい未来が開けるといい。おいちゃんはずっときみたちを応援している。