やがて猫のじっちゃんになる

2007年、NHKの朝ドラ「ちりとてちん」でぼくの目を奪ったのは、貫地谷しほりでも和久井映見でも渡瀬恒彦でもなく、当時はまだ誰とも知れなかった青木崇高が着ていたアロハシャツの柄だった。彼が着ていたアロハのド派手で大胆なデザインに、ぼかぁ、もう釘付けだったのだ。

調べてみたらば、パゴンというブランドのものだと知れた。京友禅に着物柄を用いた独特のアロハシャツ。それはそれは素敵に思えた。店は京都にあるという。この頃、京阪神には毎年のように足を運んでいた。それまで仏像好きのマダムにただついて歩いていた京都行きが、にわかに待ち遠しくなったのだった。

こうして関西を旅行するたび、パゴンの祇園店を訪れるようになった。関西在住でもないくせに、メンバーズカードまで作った。都内では、今は亡き八重洲京都館にも商品が置かれていたので何度か行った。上野松坂屋や横浜そごうへも、販売会があるたび足を運んだ。アロハといえばパゴンしか目に入らない数年をぼくは過ごしたのだった。いやさ、Tシャツもパゴンだったわいな。

そんなお気に入りのパゴンが、近年似合わなくなってきた。特に今年は全然似合わなくなっていた。なぜか。いやー、ぼくも歳とった。派手な色合い、似合わない。大胆な柄物も似合わない。顔も首も、服に負けてる。

あいやぁ、歳をとるとはそういうことであるなぁ。大いなる詠嘆。
今やこんなの着てたら、浮かれたおっちゃんにしか見えませんて。でなきゃ、職場がステージ上のヒトとか。そのどちらでも、ぼくはない。つうか、前者にはなりたくない。これからはおとなし柄のモノトーンが似合うお年頃。

ところで、かつてぼくは、海岸の猫から「おいちゃん」と呼ばれたいと思っていた。わらわらと集まってくる子たちが口々に「あ、おいちゃんだ。おいちゃん来た」などと言っているような気さえしていた。しかし、遠からず聞こえてくる日が来るだろう。「あ、じっちゃんだ。じっちゃん来た」。