「18禁」は初老男子を誘うのか

前々回で触れたせいでいろいろ思い出し、「フラガール」のDVDを観返した。
ひとりで踊る松雪泰子の姿に蒼井優が目を見張るシーンと、ラストのタヒチアンダンスとを。やはり何度観ても胸が熱くなってしまうのだった。

調子づいて「スウィングガールズ」のDVDも観返した。
これも劇場で2回観て、DVDもボックスセット、さらには劇中バンドによるライヴDVD2枚組まで買わずにはいられなかったという惚れこみよう。

いや、それはありえんだろ、無理があるだろという場面がこの作品にはいくつかあって、正直鼻白んだりもするのだが、それらを帳消しにするラストの熱さ。それだけで許す、もう許す、全部許す、みたいにぼくは感じていたりした。

というわけで、ここで「レディ加賀」である。昨年2月に公開され、観たい行きたい近所でやってくれんかと何度か口走った、小芝風花主演作。話の作りとしては、上記ふたつの作品に連なるものといえるだろう。あちらはそれぞれフラとジャズ。こちらはタップダンス。素人集団がラストでそれを披露してみせるという。

ところがだ。旅館の女将見習いよる町おこしダンスを売りにしたこの作品は、駄洒落たタイトルだけで充足してしまったのではないかと思えるほどの駄作だった。小芝風花についていえば、「レディ加賀」108分をもってしても「べらぼう」の1分に敵わない。レベルが違いすぎる。小芝風花も、そして檀れいも、無駄遣いされている。

ここまではっきりつまらないと思えた映画も珍しい。採点の甘いぼくには、他に1本しかない。深田恭子の「恋愛遊戯」だ。鴻上尚史が人気舞台を自ら監督というのが触れ込みだったが、素人ですかと問い詰めたいほどテンポの悪い映画だった。観ていてすごくつらかった。いくら深キョンが好きでもつらかった。

同じようなつらさを「レディ加賀」にも感じた。編集が悪いのか、撮り方が稚拙なのか。そもそもこの監督はタップダンスが好きなのか。もっと魅力的に、大胆に、感動的に見せられないものなのか。タップっていいな、やってみたいなと思わせないとダメでしょ。いくら小芝風花が好きでもつらかった。

などと文句を垂れるより先に、一昨日観たばかりの「アノーラ」について語るべきではなかったか。つまらなくは全然なかった。どころか、中盤からは俄然おもしろくなってきた。誰かに必要とされたかったんよなと、後半は主人公に感情移入さえした。

主演女優賞をはじめアカデミー賞5つのせいで、先週とは打って変わって大きなハコでの上映となったその日は、「18禁」に惹かれたのではないかと思われるシニアが妙に多かった。というか、初老男子がことのほか多かったので「18禁」に誘われたのかと勘ぐってしまうほどだった。ぼかぁ、ちがうぞ。