膀胱癌の診断を受けてから10年が過ぎた。
2014年の暮れに異変を感じ、年明けに町医者にて受診。初めての内視鏡検査をそこで受けた後、紹介状を持って大病院へ。妻の勤務先だった整形外科の医師からも別に紹介状をいただいた。大病院の泌尿器科科長は、この整形外科医の後輩だったのだ。
それが効いたのだろう、大病院ではさまざまな面で優遇されたような気がする。
いくつかの検査の過程で癌の疑いはずっと持たれていたのだが、最後の内視鏡検査のその場ではっきり宣告を受けた。下半身を露出したままそれを聞いた。
翌週、内視鏡による切除手術。初めての全身麻酔から覚めると同時に、猛烈な頭痛と吐き気、そして尿意に襲われた。覚醒後の第一声は「ここでおしっこしてもいいの?」だったような気がする。尿道カテーテルの挿入を知覚できていなかった。
1週間で退院。再発防止のため膀胱にBCG希釈液注入という処置を受ける。1週間おきに6回。ところが、3か月後の再検査で再発を疑われて再手術。切除された組織は、しかし、癌ではなく前回手術後に残った腫瘍だったらしい。それでも再度、6週にわたるBCG注入。ここまで何度膀胱内にカメラだのカテーテルだの入ったか、もうわからなくなってしまった。
このあたりのことはもっと詳しく書いておく必要があるかもしれない。なんとなれば、宣告から手術までの間、ぼくは先人の経験を読み漁っていたからだ。不安もそれなりにつのったが、覚悟ができたり希望ができたりもした。とにかくあらゆる情報が欲しかった。みんな心細いのだ。癌という病の前で。自分がどうなっていくのか知りたいのだ。
というわけで、以後は3ヶ月おきに内視鏡検査を受けていた。それが何年めかで半年に1度、8年たってようやく年1回の許しが出た。同じ病院、同じ科で、勝手に5年で検査を放棄した癌経験者が社内にはいたが、ぼくは言われるままに素直に受け続けた。社内には肺癌で命を落とした者もいた。家族が大腸癌で亡くなった者もいた。うちの社が特別なのではない。癌は誰がかかってもおかしくない病なのだ。
そうして幸いなことに再発・転移もなく、ぼくは10年めを迎えた。
先日、CTスキャンと尿検査を終え、最後の内視鏡検査が今日これからある。
ぜひとも無罪放免を勝ち取りたいものである。
癌サバイバーを名のりたいものである。