高2女子に手を振られて思い出す

口をもぐもぐさせながら駅に向かって歩くミウさん、高2、と出くわしたのは、週3勤務の駐輪場にて場外の見回り時。こんにちはーと言いながら手を振る姿にとろけそうになりながらも、「ナニを食べているのかね。歩きながら。行儀の悪い」と胸の中で毒づくことでなんとか態勢を保つが、実のところはこうだ。いやー、可愛えー。屈託なくてよろしー。

ミウさんひとりに限ったことではないが、このように日々高校生の姿を見るにつけ、あの年頃に自分はと、ふと回想してしまうことがぼくには多い。先週の彼女らがそうだったように、高2の10月といえばぼくも修学旅行に行っていた。女神湖には行った気もするが、その名を覚えているだけで、いったいどんな景色だったのか、他にはどこに行ったのか、まったく記憶にありはしない。

覚えているのは、出発前日のことだ。体操服を取りに行くという友人に、5駅先の学校までつきあわされた。修学旅行だで? なんで体操服? どうも彼は、旅行先でくつろぐ時も寝る時も、それですませるつもりらしかった。で、ロッカーに置きっぱなしの体操服を取りに行くのだと。明日持っていくのに? 洗濯もせずに?

それに同行するかわりに帰り道、ぼくは彼をおもちゃ屋につきあわせた。旅行に水鉄砲を持っていきたかったのだ。高校生が? 水鉄砲? 修学旅行に? そんな疑問は当の本人にはまったくなかった。ただ、おもちゃ屋の主人には少し怪訝な顔をされた。10月なのに? 高校生が? そんな感じだったと思う。

店頭にはなく奥から出してきてもらった水鉄砲は、さして活躍することもなく初日の風呂場であっさり壊されてしまった。その顛末というか、なに壊してくれてんねんと騒ぐぼくの大声は、隣の女風呂にまで響いていたらしい。

その夜、同室の誰かが持ち込んだ酒にぼくはずいぶん酔ってしまい、こんな奴を先生の前に出すわけにはいかんと部屋に閉じ込められた。大広間ではお楽しみ会だかがあり、クラスの親睦が深まるというか、男女がお近づきになれるというか、いろいろ楽しかったはずであるのに、そこに参加させてもらえなかったのは、今思えば残念な気もするが、当時はそんなことより壊された水鉄砲が(以下略)。

などというようなことを、半世紀後の高校生を見てにわかに思い出しているわけだ。まー、シニアにありがちな思考なのだろうが、別段楽しいとは思っていなかったことも、はるか昔のことになってしまうとなにやら楽しげではあり、妙に濃密な時間だったようでもある。

こんなふうに思い返す時期が、やがてミウさんにもくるだろう。クラスメートとの語らいや恋バナの末に、そういえば駐輪場にちょっと気安いおいちゃんいたなぁと思い出してもらえたら、ぼかぁ草葉の陰でぴょんぴょん跳ねて喜びますぜ。