BGMが懐メロチャンネルと化したジム、その日入館するなり流れてきたのはトム・ジョーンズ、帰り際に聴いたのはシルヴィ・バルタンという、なかなかに象徴的な選曲だった。
てか、誰かが意図的に流しているわけではなく、たまたまのことなのだろうが、中学時代のぼくの洋楽体験がなぞられているようで、なかなかに感慨深いものがあった。特にシルヴィ・バルタン、彼女の「あなたのとりこ」は中2の冬、ぼくが初めて買った洋楽シングルなのだった。
後に度々CM曲として使われたこともあり、今や世代を超えて知られている曲だが、2001年の映画「ウォーターボーイズ」のハイライト・シーンで使われていたのは実に感動的だった。
かと思えば先日以来、「ウィ・アー・ザ・ワールド」が再流行しているのかと思えるほど何度もかかっている。MTV華やかりし頃の記憶が蘇る、85年のエポック・メイキングな曲。マイケル・ジャクソンも元気だった。彼にとってかなりいい時代だったようにも思う。
今でも笑ってしまうのは、次々に歌い手が交代していく中での、ブルース・スプリングスティーンとシンディ・ローパーの突出ぶりだ。なんだ、この声のでかさ。なんだ、この存在感。一気に自分の世界に持っていくのが、見事としかいいようがないではないか。
あと、スティーヴ・ペリーとボブ・ディランも、いつ聴いても、何度聴いても印象的。はっきりスタイルが確立されているというか、アクが強いというか。あるいは単に、ぼくが即座に聴き分けられる馴染みのある声というだけのことなのか。
そして、さらには昨日、ついにとうとうショッキング・ブルーの「悲しき鉄道員」が流れた。なにが「ついに」で、なにが「とうとう」なのかというと、この曲こそがぼくにとっての洋楽体験決定打なのだった。
洋楽体験決定打。なんだそれは。まー、ビビビときたわけだ。戦慄が走ったともいう。とにかく聴き捨てならない曲だったのだ。レコードはすでに友人が持っていたので自ら買うことはなかったが、当時好きで好きでたまらない曲だった。
このレコードをすでに所有していた友人というのは、3年前に逝ったあのサト坊だ。「あなたのとりこ」を買うまで、ぼくが欲しいと思った曲は、ことごとく彼が先に買っていた。「イエロー・リバー」、「長い夜」、「悲しみの兵士」、「霧の中の二人」などなど。
「ヴィーナス」も相当気に入ってはいたのだが、ぼくのショッキング・ブルー好きを決定づけたのは、まぎれもなく「悲しき鉄道員」だった。日本独自の判断で、この曲は回転数を上げて発売されていた。だもんで、後に接したオリジナル音源は妙にもっさりして聴こえたものだ。
というわけで、初めて買った洋楽シングルがシルヴィ・バルタンだったぼくが、その3か月後、初めて買った洋楽アルバムはショッキング・ブルー。中学生にとってLPレコード購入というのはちょっとした出来事で、これをば買いに行くにあたり、ぼくはサト坊に同行を求めた。忘れもしない、明けて中3になるという春休みのことだった。
あー、もー、音楽の話なんだか思い出話なんだかわからない。が、結論だけはだいたいわかる。「サト坊、なんで死んだんや」。つうか、ジムになにしに行ってんねん、運動しにか、音楽聴きにか、いう話ですわ。


