もう四半世紀も前の話になってしまう。
インターネットならぬパソコン通信と呼ばれる、
文字だけの世界の片隅でぼくは夜ごと遊んでいた。
ニフティサーブの音楽フォーラムというところ。
親しく会話を交わすようになった中のひとりに、
文章だけでは年齢はおろか性別もはっきりしない人がいた。
名前もしなやかな文体も、女性のようでもあり男性のようでもあった。
ぼくはけっこう面白がられていたらしくよく相手をしてもらったが、
その見識と物腰、柔軟な思考は刺激であり憧れだった。
そんな彼がぼくより17も年上の高名なジャズピアニストであることをやがて知った。
大いに驚いたが、なるほどなぁと納得する部分も確かにあった。
もちろん、あちゃー、ずっとタメ口でえらそうなこと言ってたよという軽い悔恨も。
今、当時の彼の年齢をはるかに超えて思う。
ぼくの頭は柔らかだろうか。
よく知りもしないものをこうだと勝手に決めつけていたりしないだろうか。
ろくに人の声を聞きもせず独りよがりに陥っていたりしないだろうか。
ぼくは彼に多くを学んだ。彼はぼくの先生だった。
以下余談。つうか、蛇足。
15年ほど前、北海道での単身赴任生活を終えて戻ったぼくのもとに、
演奏ツアーでそちらに行くので会えないかと彼から連絡があり、
残念、ぼかぁもう北海道にはいないんですよと返事した。
じゃあ東京で会いますかという話にはならなかった。