天知る、地知る、ミシルである

テレ東で「善徳女王」の放送が始まった。
ずいぶん前に一度見た作品ではあるが、始まってしまったからにはまったく見ないわけにもいかなそうだ。というか、実際見ている。マダムがいそいそと録画予約をしたことでもあるし。

2009年に韓国で制作されたこのドラマ、今となっては古いっちゃ古いのだが、ぼくにとってはいまだに韓国時代劇ベスト5の一角だ。他の4つは何かというと、「帝王の娘 スベクヒャン」、「奇皇后」、「六龍が翔ぶ」、「ミスター・サンシャイン」。

新羅を舞台にした「善徳女王」、百済の「スベクヒャン」、高麗から元へと舞台を移す「奇皇后」、李氏朝鮮建国時の「六龍」、そして朝鮮末期の「サンシャイン」と、一口に時代劇といっても時代を同じくしないところが我ながら興味深い。

ちなみに、時代劇のことを韓国では史劇(サグク)と呼ぶ。できれば「ク」は小文字を使いたい。あるいは「k」と記すか。発音としては「サグッ」が近い。韓国語学習者でなければ、まー、どうでもいいか。

「善徳女王」、なにがおもしろいかというと、敵役ミシルの魅力に尽きる。後に朝鮮半島を統一する新羅の、その王朝簒奪を図る稀代の悪女なのだが、周りを固めているのは従順か無能な連中ばかりなので、彼女ひとりの知力、胆力の光ること。狡猾ともいう。いや、狡猾としかいいようがないか。

加えて、妖しく美しい。立ち居振る舞い、ものの言いよう、どこをとっても見事。さらに、まるで歳をとらない。それを不思議だとも思わせない。魔人か。とにかく、眉の動きひとつ目が離せない、圧倒的な存在感。これほどのハマり役、他にあるんだったら教えてほしい。

今回、改めて見て思うのは、最初4話ぐらい我慢を強いられることが多い韓国ドラマの中にあって、この「善徳女王」の初回からの飛ばしようは異色でさえある。なんだこの疾走感は。いきなり怒濤の急展開。こんなことをされたら、それはもう見続けるしかないではないか。

ミシル退場後、このドラマの視聴率は落ちたそうだ。さもあろう。主役は完全に食われていたし、以後の物語はほとんど蛇足、取って付けたようなものだった。ミシル最強。時代が時代、そして舞台が日本なら、彼女を主役にしたスピンオフ作品がまちがいなくできていたことだろう。「劇場版ミシル」とか。絶対行く。公開初日に絶対行く。