ハラダさんはわが駐輪場の定期利用者。よその市から通って来、ここから自転車で学校に向かう。多くの高校生が比較的安価な2階以上を契約しているなかで、数少ない1階契約。しかも停めやすい下段ラックではなく、力も手間もかかる上段ラックを好んで使う稀有な女生徒ということで、入学間もない頃からその存在には気づかされていた。
ランダムだった利用ラックは、やがて我々が詰めている受付に最も近い場所に固定された。顔を合わせる機会も増え、帰宅時には「お疲れ様です」と朗らかに声をかけてくれるようにもなった。明るく気さくな子であった。
2年の夏休みが終わり、すっかり垢抜けてきたなぁと思っていたら、秋口には男子生徒と時々一緒に帰ってくるようになった。お相手は3階利用者、イイジマ君。そんなことまでなぜわかるのかというと、契約更新時ごとに申込書への記入が必要だからである。
ふたりの仲は3年になっても変わりなく、一緒に帰って来る日は週に1、2度必ずあった。そんなある日。浮かれた様子のイイジマ君が、わざと大きな音をたててドタバタと上階へのスロープを上がって行った。音と振動が場内に伝わった。
それを見上げたハラダさん、1階の定位置に自転車を停めながら大きな声で一言「うるさいっ!」。刹那、傍らにいたぼくと目が合った。実に楽し気な、やさしい笑みを彼女は浮かべていた。「このバカが」とイイジマ君を見上げて笑い、「バカでしょ」とぼくを見て彼女は笑ったのだった。
その時、びびびとぼくは思った。きみたち、今はなんでもないことだろうけど、これってすごく貴重な時間なんだよ。とても幸せな時間なんだよ。後々きっと思い出すよ。いいよ、すごくいいよ。立ち会えたおいちゃんもうれしいよ。てか、おいちゃんが一番楽しんでるかも。
そんなハラダさんとイイジマ君が卒業していって1年になる。なんだ、今年の卒業生の話じゃないのかという声もありそうだが、残念ながら今年の卒業生に関しては、このふたりほど濃密な記憶がない。
それでも思ってはいるのだ。毎年思っている。心底思っている。3年間よく頑張りました。きみたちみんなに明るい未来が開けますように。卒業おめでとう。


