そりゃ台風なんだから、ひゅうひゅう風は吹くだろうし、時にごぉっと鳴りもするだろう。
そんなもんだと思っている。どえりゃあ風だがねなどと言いつつ、ちょいの間辛抱すればいい。
と、ぼくは考えていたりもするのだが、そうはいかないのがうちのマダムだ。
ひゅうっと鳴るたび、ひぃひぃ言う。ごぉごぉ鳴ったら泣き声まで出す。
怖がりというか、臆病者というか、心配しぃというか。
ま、ふたりを足して割ったぐらいがちょうどいいのかもしれないとも思う。
確かにうちは風が吹いたら揺れるような、界隈でも指折りの粗末な家だし。
というわけで、今回の台風19号。
テレビでさんざん言うものだから、やってくる前からマダムはおろおろしっぱなし。
当日の朝にはすっかり避難する気になっていた。
あなたは家にいてもいい、自分はひとりでも避難所に行くと荷造りさえ終えている。
あいやー、マジっすか。でも、行くときは一緒でしょう、夫婦なんだから。
徒歩圏内には小中学校併せて3つの避難所がある。
避難するにしたってまだ早すぎるんで、とりあえず様子を見てきやしょうと馴染みある小学校へ。
避難所に充てられた体育館にはすでに100人ほどいて、ひとり1枚の毛布が与えられるのだとか。
テレビなどで見慣れた光景を目の当たりにしてぼくは思った。
避難するならこの小学校ではなく、周囲に立派なお屋敷が多い中学校だ!
あんな家に住んでたら誰も避難しようなんて思わない。いい場所だって取れるはず。
読みは当たった。下見せずに行った中学校にはわずかな人しかいなかった。
しかも避難所は体育館ではなく2階の、本来なにに使うのだろうか、一般教室でもないカーペット敷きの部屋。
さらに与えられる毛布はひとり2枚。なに、小学校とのこの待遇の差。
余裕を持っていい場所取れるし落ち着くし、むしろ快適でさえある。
すっかり安心したマダムはにこにこお菓子を食べ始め、
ぼくはぼくで妙に浮かれて、誰彼かまわずラインする。
風雨が収まるや早々に帰宅する人もいる中、
マダムはといえば消灯時間前から寝息を立てていたりする。
家にいたら絶対にこうはなっていないよな。
これはもう、この先台風が来るたび避難所だなぁとすっかり観念したのだった。
翌朝、明るくなってきたところで帰宅。
我が家の被害といえば簾が1ヶ所外れ、庭に積んであったタイヤが転けたぐらいで、
道にまで転がり出たら問題だが、庭に転がっている分には被害のうちにも入らない。
この日、まさにマダムの誕生日でもあった。
ちなみに、ぼくは4日後だ。